ぼちぼちいこか

今の職場に入って間もないころ、まだ担当のクライアントも持っていませんでした。
今、狸ちゃんがやってくれている事務をしていました。

事務と雑用が仕事なので、備品やコーヒー豆、お茶などが残り少なくなると
お買い物に行くのも私の仕事の一つでした。

私の職場の近くには、駅まで続く長い商店街があるので、
職場のものや自分のお昼ご飯を買うのに、とても便利です。
月に２～３回は、その商店街に行っていたと思います。

最初は「あれ？なにか当たった？」くらいにしか思わなかったのですが・・・。

その商店街に行くと頻繁に会う人がいます。
父よりも少し若いくらいの年齢に見えるオッサンです。

そのオッサンは自転車に乗っているくせに、すれ違いざまに私のお尻をもむのです。
ええ。
お尻を「なでる」とか「さわる」ではなく、お尻のオニクをつかむのです。

周りに行き交う人はたくさんいるのに、大変な早わざで、私のお尻をつかむのです。

（もしかして、読みながら笑ってるかたが多いのでしょうか？
いえ。笑っていただいたほうが、まだ救われます。）


最初の２～３回は、何が起こったのかわかりませんでした。
その人とすれちがうとお尻に違和感を感じるし、
お尻が痛いと何度目かで気がつきました。

ムカッ！ときたので、振り向いて、その人だと確認しようとしたとき、
そのオッサンは私を見てニヤニヤと笑っていました。

気持ち悪いです。

それからの私は、そのオッサンの姿を見つけると走って逃げるようになりました。

ある日、そのオッサンに気付かなかったとき、またお尻をつかまれました。
いつも、とっさのときに何も言えない私ですが、
その日は「オッサン、どこさわってんのよ！」と大きな声で言うことができたのです。

だけど、そのオッサンは自転車でス～ッと去っていきます。
その場に残った私だけが、周りの人から奇異な目で見られるのです。
なんかオカシイ・・・理不尽な思いをしたものです。

しかし、そのオッサンの手口のずる賢さや素早さは見事なものです。

そのうち職場でも、お買い物から帰った私の機嫌が悪いと
「あのオッサンに遭ったの？」と聞かれるようになりました。

その後、後任が入ってきて、私はお買い物に行く機会が減りました。
お弁当を作って行かなかった日のお昼ご飯を買いに行くときくらいです。

やれやれ、もうあのオッサンに遭うこともない・・・と思っていたら、
商店街とは全く別の場所で出くわしたことが何度かあります。
もちろん、慌てて逃げました。

そのオッサンに遭わなくなって、もうかなりの年数が経ちます。

今日の午後、クライアントの会社へ向かうため、職場から駐車場まで歩いていました。

ニタニタ笑いながら、ゆっくりと自転車に乗った男性が前からやってきました。
不思議なことですが、自然と防衛本能が働いたのでしょうか。
その人から一番離れた場所を歩くように進路をとっていました。

角を曲がって行ったその自転車の男性は、
振り返って私の姿を認め、まだニタニタ笑っていました。

だれ？どこかで見たことがあるよ。気持ち悪い人・・・。

そこで、やっと記憶の回路がつながりました。

「あのオッサンや！」と。

職場の駐車場へ着くまで、何度も何度も振り返って、
そのオッサンがついてきていないか確認しました。

思い出しただけで腹立たしいです。
気持ち悪いです。
ああ、こわかった。

しかし、あのオッサン、まだ生きていたのですね。
もう二度と遭いたくないです。

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